ずいぶんと以前の話なんですが、直属の上司ととても折り合いの悪い時期がありました。
今の基準から考えるとパワハラかモラハラを受けていて、時間とやる気をひたすら消耗する毎日を過ごしていたのですが、ある時期から、スーツの上着の内ポケットには、いつも「辞表」を忍ばせるようになりました。
どうしても上司に我慢できなくなったら、その「辞表」を叩きつけてやろう、と思っていたからです。
結果的に、その上司に対して「辞表」を出すことはなく、その後、何年も経って「早期退職の同意書」を提出して退職したので、私自身、「辞表」を出したことはありませんが、後になってある事実を知り、「辞表を出さなくて良かった」とホッとしたことがあります。
それは、
「そもそも、会社員である私が辞表を出すのは間違い」
だということを知ったときです。
「辞表」とは何か?
「バカヤロー!ふざけたマネをしやがって!辞表を出せ!辞表!!」
こんなセリフ、世の中のどこかで、今も毎日、発せられていることでしょうね。
一昔前だったら、
「お前なんか、辞めちまえ!」
とか、
「クビだ、クビ!明日から会社に来るな!」
との怒声が飛び交っていたことでしょう。
でも、今、これを言ったらコンプライアンス上、大問題となってしまいます。
なので、よっぽどバカな上司か組織ぐるみのブラック企業でない限り、「辞めろ!」とか「クビだ!」なんてことは言っていないはず。
その代わりに、退職を促す「辞表を出せ!」という言い方が増えているのでは?と思っているのですが・・・(これはこれでコンプラ違反ですから、実際には無いかもしれませんけど)。
実は、この「辞表を出せ!」という言い方、多くの場合、間違いなのです。
というのも、そもそも辞表とは、いわゆる役職者がその役を辞するときに提出する書類のことだからなんですね。
公的な組織の役職者や民間会社でも役員クラス、そして、公務員などの公職に就いている人が、その職を辞するときに出すのが「辞表」なんです。
上述の私が上司と折り合いが悪かった時代、ポケットに入っていたのは、まさに「辞表」というタイトルがついた封筒でした。
公務員でもなければ、もちろん会社の役員でもない、一介のサラリーマンである私が、大見得を切って辞表を叩きつけたとしたら、
「? これ、タイトルが違うよ」
と突っ返されていただろうと思います。
「辞表」と「退職願」「退職届」の違い
では、一般のサラリーマンが会社を辞めるときに出すのは何でしょうか?
それは、「退職願」か「退職届」です。
「辞表」と「退職願」「退職届」の違いは、出す人の立場の違い、ということになります。
「退職願」と「退職届」は、自らの意思で退職する場合、つまり、自己都合で退職する際に提出する書類です。
定年退職や契約社員が期間満了で会社を辞めるときは、出す必要はありません。
不始末を起こした社員が、懲戒処分で「諭旨免職」になる場合があります。
これには、
「自分から辞めるのなら、懲戒解雇だけはカンベンしてやる」
と言う意味合いが含まれているケースがとても多いのです。
このときも、出すのは「退職届」となりますね。
「退職願」と「退職届」の違いとは?
では、「退職願」と「退職届」の違いとは一体、何でしょうか?
簡単に書くと、
- 「退職願」は、退職を願い出ることで、後から撤回できるもの
- 「退職届」は、退職を届け出ることで、後から撤回できないもの
となります。
退職願
待遇改善など、会社を辞めるぐらいの覚悟で会社にものを申す際は、「退職願」を差し出します。
会社が要望に応じてくれれば、「退職願」は撤回することは可能なので、引き続きその会社の社員として仕事を続けられます。
本当に退職するかどうかは、会社の出方次第との意味合いがあるわけです。
個人的な理由で会社を辞めようとするときは、「退職願」は特に必要なく、口頭で伝えればOKです。
とは言え、しっかりとした意思表示を行いたいときは、あえて「退職願」を出しても良いでしょう。
進退伺い
余談ですが、「退職願」より軽いのは「進退伺い」。
何か失敗をやらかしてしまった後、「どうしたらよいか、決めてください」と判断を委ねるもの。
一般的には、何らかの問題を起こした際に、
「形式的に反省の気持ちを表す」
ことを目的として出す、あるいは、出させることが多く、結果、不問とされるもので、いわば儀式のツールみたいなものです。
退職届
一方、「退職届」は、退職が決定しているときに出すもので、通常は退職に関する事務手続きに必要なごくごく平凡な書類です。
ちゃんとした会社なら、「退職届」の雛形が用意されていることでしょう。
会社を辞めるときは通常、「退職の意思表示」を行い、退社を承認されてから「退職届」を出すという流れになります。
そして、ほとんどの場合、「退職の意思表示」は「退職願」という書面ではなく、口頭で済ませるケースが多いようです。
辞めるつもりがないのに退職届を出すと
ところで、上の「退職願」の欄で、会社と刺し違える覚悟で物を申す場面について書いていますが、この場合で会社を辞めるつもりがなければ、間違っても「退職届」を出さないようくれぐれも気をつけてください。
もし、「退職届」を出してしまうと、そのまま受理されてしまい、本当に会社を辞めなければならなくなります。
そして、辞めた人間の言うことなど、会社がまともに取り上げるわけがありません。
ということで、物は申したけれどそれで終わりの自爆行為になりますので、ご注意を。
「退職届」の書き方と出し方
「退職願」はよっぽどのことがない限り、出す必要はありません。
一方、「退職届」は、労働契約の解約するものとして、事務手続き上、会社を辞めるときには必ず提出するもの。
会社によっては、書式が準備されていて、必要事項を記入して提出するようにしているケースが多いですが、指定書式がない場合は、自分で書かなければなりません。
一般的に文面は、以下のとおりとなります。
ポイントは、
- タイトルとして「退職届」と明示する
- 退職する日と退職届を提出する日を明記する
- 所属部署・名前の下にハンコを押す
といったところ。
退職理由は、具体的に書かず「一身上の都合によりでOKです。
*一番最初の行の下段に「私事」と書くのは、原則、「退職願」の場合です。
用紙はA4サイズで、ワープロ打ちでも、手書きでも、どちらでもOK。
白無地の封筒の表に「退職届」と書き、これに入れて上司に提出します。
なお、退職届を上司の机の上に置きっぱなしにすると、後々、面倒なことになりかねませんので、必ず手渡ししてくださいね。
おわりに
以上、辞表・退職願・退職届のそれぞれの違いと退職届・退職願の書き方・出し方について記しました。
もし会社を辞めようと考えているなら、そして、喧嘩別れではなく円満退社をしたいのなら、「退職届」や「退職願」をいきなり出すのはやめましょう。
まずは、直属の上司に対して「退職する」旨を口頭で伝えること。
これが穏便に退職する第一歩となりますので。
では、また。