20代の管理職
20代で管理職に就いている知り合いが、何人かいます。
どなたも、とっても優秀な方ばかりなので、若くして管理職に抜擢されたのもなるほどと納得できるのです。
でもご本人たちに話を聞くと、
- 会社の離職率が高く、役付きの人がドンドン辞めていって、気が付いたら管理職になっていた
- とんでもなく残業が多い会社で、あきらかに人件費削減(=残業代を支給しなくてすむ)のため管理職にさせられた
のいずれか、もしくは両方が当てはまっているようなのです。
本人が「管理職になりたい!」と望む以前に、管理職にさせられているわけで、
- 早く出世できたことを嬉しく思っている
という気持ちが半分、
- 無理やり管理職の役割と責任押し付けられてしまったけれど、今の会社で仕事を続けるためには「仕方がない」とあきらめている
といった感じが半分でした。
管理職に求められる仕事を簡単に書くとと、人をマネジメントすること、仕事を回していくこと、そして、組織のビジョンやミッションを描いていくこと、となります。
これらを上手にこなしていくためには、頭の中の知識だけではなく、ある程度の社会人としての経験は必要です。
若くして管理職に抜擢された(無理やり管理職にさせられた)人たちは、その必要性を十分分かっているだけに、今の状況を「キツイ」とぼやいていました。
会社それぞれの事情があるため一概には言えないのですが、やはり、20代で管理職に任用されるのは、早すぎると言えるでしょうね。
巨大企業で管理職になるエリートとは?
さて、20代管理職の知り合いの中で、社名を聞けば、誰でも知っているような某財閥系の超巨大企業で、25歳で管理職になった女性がいます。
以下、A子さんと記します。
この会社、聞くところによると、将来、管理職になる総合職は、東大・京大をはじめとした国内トップクラスの大学卒業者。
でないと、総合職としては、まず入社できないそうです。
世間的にエリートと認められている人たちがこの会社で管理職に任用されるのは、早くて30歳代半ば。
入社してから管理職になるまでのモデルケースは、
- 入社後、地方の事業所に配属となり、数年間、ドサ回りしながら現場の経験を積む
- そこで結果を出して認められれば本社に異動し、現業に近い部署で2~3年過ごす(この段階で本社に異動できなかった人の多くは退職するまで、地方の事業所勤務)
- 社内の資格試験に合格して、アメリカのアイビーリーグクラスの大学院でMBAを取得するか、中央省庁や政府関連機関、経済団体等へのいわゆる天上り出向を経験する
- 本社復帰し、中枢部門で数年、実績を出す
というもの。
エリートたちが社内での熾烈な競争を勝ち抜いて、それでも管理職になれるのは早くても30歳代半ば。
そして、こんな彼らでも、初めて管理職になったときは、部下無しか、せいぜいアシスタントが1名というレベルなんだとか。
20代で女性管理職に抜擢されたA子さん
こんな会社で20代で管理職に抜擢されたA子さん。
彼女は、とある短期大学を卒業し、学校の推薦枠でその会社に入社しました。
エリートたちとは違って庶務的な仕事を担う一般職で、さらに限定的な業務での採用です。
社内のエライさんに強烈なコネがあるわけでもない、ごくごく平凡な存在だったわけです。
本人としては、毎日、庶務業務をこなしながら、いわゆる普通のOL生活を楽しみ、社内で結婚相手を見つけて寿退社を目論んでいたのです。
ところが・・・、入社して4年を過ぎたころに、事務職から他事業所の営業職に配属となります。
これだけでも、異例の人事だったのに、その半年後、さらに別の事業所の営業課長に任用されたのです。
ここで、その会社史上初の20代・一般職採用の女性管理職が誕生したのです。
めでたし、めでたし。
とはなりませんでした・・・。
「なんで、自分が?」
他の誰でもない、まさにA子さん本人が一番驚いたそうです。
この人事って何かの間違いじゃないか?と。
上司に理由を尋ねても、はっきりした答えはなく、
「本社の人事サイドで決定されたことだから。とにかく頑張れ」
とした言われなかったそうです。
おそらく、社内でも相当、上層のところで判断されたことであり、その上司にも詳しい理由は説明されていなかったのでしょう。
なので、A子さんは、なぜ自分が初の女性管理職に抜擢されたのか、分からないままだったのです。
ここで、質問。
もし、あなたがA子さんだったとしたら、どうしますか?
喜んで抜擢人事を受ける?
それとも、「自分には無理」と辞退する?
あなたなら、どうしますか?
管理者に大抜擢されての思い
A子さんは、甘んじて辞令を受けることとしました。
というのも、管理職任用という大抜擢人事を「辞退」するなど、ありえないからです。
普通の人事でも、拒否するのは難しいのに、今回のケースは間違いなく高度な経営判断の結果といえます。
それを拒否するということは、会社を辞める以外に道はありません。
しかし、もし、A子さんが異動を拒否して会社を辞めてしまったら・・・、彼女の上司には、
「なぜ、辞めさせた?!」
とお咎めがくるのは間違いありません。
上司は会社の中で、一生、日の目を見ずに過ごすことになるかもしれないと考えたら、とても辞める勇気を持てなかったそうです。
なので、「20代の一般職の女性社員が史上初めて、最年少で管理職に大抜擢された」ことに対して、嬉しさや「してやったり」といった気持ちは一切無かったそうです。
さて、A子さんが考えたことは・・・
ありとあらゆる妬み・やっかみを受けるだろう。
これから一挙手一投足がすべて注目され、うまくいって当たり前、普通ではダメ、ちょっとでもまずいことになれば大失敗の評価を受けるだろう。
そもそも、それ以前に、部下が自分の言うことを聞いてくれるはずがない・・・。
そんなネガティブなことしか無かったと言っておりました。
20代の女性管理職を待ち受けていた現実は
管理職として着任した新しい部署では、5名の部下がいます。
上は40代後半から、下は30才手前で、もちろん全員年上。本人曰く、
女性の部下がいないことが救い
だったとか。
恐る恐るの管理職スタートですが、本人が拍子抜けするくらい、課員はアッサリと受け入れてくれたそうです。
このあたり、課員には組織人としての割りきりがあったのでしょう。
むしろ、娘や妹に接するように、優しく対応(指導)してくれたそうです。
仕事は忙しく、部下の手前もあります。もちろん、部下以外の厳しい目線も。
朝6時過ぎには出社して、終電帰りの毎日。
営業課長ゆえに、土日祝日もあってないようなもの。
職責を全うしようという責任感と、周囲の厳しい目というプレッシャーを受けながら、人一倍の努力をしたA子さんのことを、部下は認め、しっかりとフォローしてくれたのです。
しかし、対外的な仕事では、そう簡単にはいきません。
彼女の部署は、お客様とのトラブルが多く、営業課長の出番となることが多いのですが・・・。
これまでであれば、40代後半から50代前半のそれなりに押し出しのある男性課長が出張ってきて、
「社長、このたびは大変申し訳ございませんでした。私のほうから、きつく叱っておきましたし、本人もこのように痛く反省しておりますので、ここはひとつご勘弁を」
なんて感じで頭を下げれば、話は収まっていたのです。
ところが、トラブルの相手先に彼女が行くと、必ず、
「誰だ、お前は?どういうつもりだ?」
からはじまり、
「こんな小娘を連れてきやがって!お前ところの会社は、ウチをなめてるのか!お前じゃ話にならん!所長を連れてこい!」
と、余計にこじらせてしまうそうです。
もちろん、所長に行ってもらうわけにはいきません。かと言って、彼女が再度行っても、結果は同じ。
そこで、年配の担当者が日参し、時間をかけて怒りを静めてから、事後対応を行う、との流れになります。
課長という立場にありながら、その職責を果たせていないどころか、むしろ、部下の足を引っ張っているわけです。
それが、本人の能力の問題であれば、本人に責があるわけですが、ただ単に「若い女性の管理職」であることが理由な訳です。
どうもこうも努力のしようもない話ですので、当事者としては、とってもキツイですよね。
やっぱり無理・・・会社を辞める
この話を聞いたのが、昨年の2月頃、彼女が管理職になって半年くらい経った後です。
性格は根っから明るく気丈な人ですし、「ぶわぁ~」って感じで、会社の愚痴をぶちまけてましたから、
「アタシ、このままだとメンタルになるかも」
と笑いながら言われても、
「そんだけ文句を言う元気があったら、大丈夫じゃないの?」
と無責任に答えていたのですが・・・。
しばらくして、「やっぱり無理。会社を辞める」と言い始めました。
「もったいない。このまま頑張ったら、史上最年少執行役員も夢じゃないでしょ?」と聞くと、
「それはない。勤務地の異動はあっても、自分はおそらく、ずーっと今の営業課長のまま。本社にも行けないし、営業所長にもなれない。なのに、いつまでも、こんなハードな生活は続けていられない」と。
そして、「会社は、そんなに甘いもんじゃない」とも。
それ以上は語りませんでした。
人には言えない「会社の中でのなにか」が分かったのでしょうね。
そして、今年の3月末の退職を決めたそうです。
この間、いくつかの資格を取るべく、忙しい中、勉強をしていたとか。
曰く、「再就職をするときに、『なぜ、あんな巨大企業で、史上最年少で管理職になったにも関わらず、すぐに辞めたのか?』を必ず聞かれるはず。これは明らかに不利。だから、資格でカバーする」と。
「本当は、寿退社を狙ってたんだけどねぇ」と笑っていたのが印象的です。
女性管理職登用のいびつな運用
「すべての女性が輝く社会づくり」が、推進されています。
その中では、「責任ある立場の女性比率何%」のような、お役所の大好きな数値目標もあげられていますね。
いろいろなキレイ事が散りばめられているようには感じますが、ここで標榜されていることは、まあ納得がいくことばかりです。
(ネットアンケートでは、「輝く女性」という言葉に8割以上の人が「イラッとする」と答えているようですが)
特に、これまで女性であることが理由で、不遇だった人、チャンスすらもらえなかった人には、「ようやっと、時期がきた」との思いがあるでしょう。
政府からすれば、女性の生産性を高めれば税収はあがりますし、専業主婦数を減らせれば税負担は減りますからね。一石二鳥ですもんね。
ところが、こと女性の管理職登用に限定して言うと、現実的には、いびつな運用がなされています。
例えば、あるポストに空きができて、その候補者が複数いた場合、
格段に能力が下でも女性の候補者を優先する
という話を、いくつもの会社の人から聞きました。
皆さんが一様に言うには、
「能力があれば、男も女も関係ない。できる奴が上に上がっていくべき。
なのに今、無理やり女性を引き上げようといびつなことをしている。
いわゆる逆差別である。
これは、男性にとって不幸であるだけでなく、女性にとっても不幸である」
と。
そして、「このツケは、必ず数年後にまわってくる」ともおっしゃっています。
私が勤務する会社でも、同じ現象が起きています。女性を対象とした人事で、端から見ていて、「おかしいなぁ」と思うことが多数あります。
そして、「いびつな運用によって生まれた女性管理職」が率いる部署は、それは見事にガタガタになっています。
そりゃそうですよね。
男女関係なく、能力の無い者が組織の運営を行っているわけですから。
数年後どころか、すでに今、おかしくなっているのも、当たり前のことです。
部下はかわいそうだけど、無理やり任用された本人もかわいそうですよね。
逆に、本来、相当のポストに就いていてもおかしくない能力の高い女性社員が、管理職になっていない場合もあります。
事情通に聞くと、
「今、管理職になると、ただ単に「女というだけで管理職になった奴」と思われる。それがイヤだから、ずーっと拒否しているらしい」
と教えてもらいました。
これまた、不幸なことです。
件のA子さんは、おそらくこの「女性を無理やり抜擢する」という渦中に巻き込まれたのだと思いますが、実際のところは、わかりません。
ただ唯一言えるのは、もし、あの大抜擢がなければ、A子さんはおそらく今も普通に勤めを続けていて、おもしろおかしい毎日を過ごしていただろうな、ということです。
おわりに
能力や適性を別にして、ただ単に女性だからという理由で優遇される。
これによって、まだ時期尚早の女性がそれなりのポストに就く。
そして、その結果が、うまくいかない・・・。
こうやって、「やっぱり、女は・・・」との物言いがなされるとしたら、「輝く」どころの話ではありませんよね。
振れすぎた振り子の戻り幅は大きいものです。
何年か経ったら、きっと変なツケが回ってくるのでしょう。
<出産・育児・仕事について書かれたブログ>
それでは、また、次回。