ウォーレン・ベニスという方をご存知でしょうか?
南カリフォルニア大学リーダーシップ研究所の所長で、リーダー論の権威と言われる方です。
ウォーレン・ベニス氏が説くリーダー論は、すごく納得できるもので、特にマネジメントとリーダシップは、質的に完全に違うものと強調している点に、とても共感しています。
実際、多くの管理職の方々が「管理職はツライよ」と感じている原因は、マネジメントとリーダーシップをごちゃごちゃにしているからだと思っていますので。
ただ、ウォーレン・ベニス氏のマネージャーとリーダーの役割に関する主張には、大きな違和感を感じています。
その違和感とは「マネージャーはしょぼい・せこい」と定義付けしていることなんです。
マネージャーとリーダーの違い
以下、マネージャーとリーダーの違いに関するウォーレン・ベニス氏の主張の引用です。
これはマネジメントとリーダーシップの違いとも言えるでしょう。
- マネージャーは「管理」し、リーダーは「革新」する。
- マネージャーは「模倣」し、リーダーは「オリジナル」である。
- マネージャーは「維持」し、リーダーは「発展」させる。
- マネージャーは「秩序に準拠」し、リーダーは「秩序を創り出す」。
- マネージャーは「短期的な成果」を、リーダーは「長期的な成果」にこだわる。
- マネージャーは「いつ、どのように」を、リーダーは「何を、なぜ」を、問う。
- マネージャーは「費用対効果(損得)」に、リーダーは「可能性」に目を向ける。
- マネージャーは現状を「受け入れ」、リーダーは現状に「挑戦」する。
- マネージャーは「規則や常識通り」に行動し、リーダーは最善を求め「規則を破ることも辞さない」。
- マネージャーは「能吏」であり、リーダーは「高潔な人格」が求められる。
ざっと読まれて、どんな印象を持たれますか?
マネージャーとリーダーを対比させているし、そもそもウォーレン・ベニス氏は『リーダー論』の権威だからなのでしょうけど、字面だけを見ると、リーダーに比べマネージャーの仕事をやたらにセコイというか、ショボイものとして定義していますよね。
私が感じた違和感は、このマネージャーのことをしょぼくてセコイ存在にしていることなのです。
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マネージャーとリーダーの仕事が、ゴチャゴチャになっている
昨今のマネジメント論では、マネージャーの仕事を、上述のリーダーがやるべきことで語られているケースが多いです。
マネージャーは、革新的であれ!
オリジナリティをもって組織を発展させろ!
とか、ね。
でも気になるのが、上述のマネージャーがやっている「管理」とか「維持」といったことは、誰がやるべきなのか?ということ。
その答えはやっぱり、管理職=マネージャーの立場にある人ですよね・・・。
つまり、今のマネージャーは、しょぼい・せこいと思われるマネージャーの仕事と、リーダーが担うべき格好の良いことを同時にやらなければならない、ということなのです。
マネージャーと言う立場になったら、この両方のスキルを持ち、かつ、バランスよく発揮する力が求められます。
しかし、それは非常に難しいことであり、多くのマネージャーは、能力的に無理なのでは?と思うのです。
(よっぽどのスーパーマンでも、絶対にできないですよ、こんなこと)
一方で、いわゆる部下たちは、マネージャーに対して、高いマネジメントスキルとリーダーシップを同時に求めます。
そして、ちょっとでも出来ない上司に対して、「ダメな上司」と見下すのです。
お互いに不幸な時代ですよね。
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マネジメントとリーダー、両方の仕事がゴチャゴチャになって、全部マネージャーがやるべきであるという時代。
現実的には、どっちもまともに出来ずに、部下とのキョリは離れていくという悪循環。
これらが高じて、心身を損なうマネージャーが増えているとの話もあります。
この状態から抜け出す最善の方法は、
マネジメントとリーダーシップは完全に別物と考え、両者を区分し、まずはマネージャーとしての仕事をしっかり行うほうが良い
と考えます。
参考 上司という「職務としてリーダー役を命じられた人」が考えるべきこと
マネージャーがすべき仕事とは?
上述のマネージャーの仕事として書かれている項目、リーダーと対比するとセコク見えますが、一つひとつを見ていくと、とても大事なことばかり書かれているのです。
例えば、こう読み取ったらどうでしょうか?
- 「管理」とは、状況を正確に把握し、遅滞・過不足なく遂行させること
- 「模倣」とは、成功事例を基に、その再現を着実にこなすこと
- 「維持」とは、今より悪くならないような手立てを打つこと
- 「秩序に準拠」とは、ルールを守り、逸脱による破壊から回避すること
- 「短期的な成果」とは、当期目標という事業継続の最重要事項を達成すること
- 「いつ、どのように」とは、具体的かつ現実的な業務遂行のマイルストーンを描くこと
- 「費用対効果(損得)」とは、事業継続上、重要は判断事項を行うこと
- 「受け入れ」「規則や常識通り」とは、現実的で安定的な選択をなすこと
そして、とても保守的ではありますが、ウォーレン・ベニスが最後に記した「能吏」は、
マネージャーは「能吏」でなければ、組織と事業の安定性・継続性は保てない
ことだと言えるのです。
リーダーよりマネージャーであることが大切
もし、数多いるマネージャーの皆が皆、ベニスの説くリーダー的な行動に終始するどうなるか?
たま~にホームランは出るかもしれませんけど、その前に三振の山を築くのは目に見えていますよね。
さらに言えば、ホームランが出る前にコールド負けとなる可能性も十分あるでしょう。
ぶっちゃけ、リーダーぶって大言壮語を吐くクセに、ろくすっぽ仕事ができないバカ上司って山ほどいますしね。
あなたは、上記のマネージャーの仕事を全てしっかりと出来ていますか?
リーダーに比べて、しょぼくてせこく見えるマネージャーものすごくハードルが高いことばかり。
なので、「俺はできている!」と言える人は、ほとんどいないのではないでしょうか?
マネージャーとして足元を固めるというのは、保守的と捉えられる仕事を堅実にこなしていくことであり、それは、本当に難しいことだと思います。
だからこそ、しっかりと仕事に向き合っていくことが大切だと言えるのではないでしょうか。
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